2章 特殊相対性理論とは何か
光速度一定の原理
光速度一定の不思議
相対性理論は相対性原理と光速度一定の原理から導き出されました。
ここでは、光速度一定の原理について考えていきましょう。
時速30キロメートルで走る乗用車が、時速40キロメートルの乗用車とすれ違うとき、相手のクルマは時速70キロに見えます。
二台の自動車が、どちらも時速50キロで並んで走る場合、お互いに相手のクルマは止まって見えます。
物体の動くスピードは、それを見る相手によって変わってきます。
地面に立って見て50キロで走るクルマも、同じ速度で並んで走れば、止まって見えるのです。
見る相手によって、見え方が変わることを相対的といいます。
物体の動きはすべて相対的です。
ところが一つだけ例外があります。
それは光です。
光(正確には電磁波)は、見る人の速度とは無関係に常に秒速30万キロで伝わっていくのです。
マイケルソンモーレーの実験で、光の速度が見つけられなかったのはこのためです。
光速度検出の努力
光の速度を測定しようとした最初の人物はガリレオです。
二人の助手A、Bを、数キロメートル離れた丘の上に登らせました。
助手はそれぞれ覆いをかぶせたカンテラを持っています。
ガリレオはAのすぐそばで合図すると、Aが覆いを外します。離れた丘の上で光を見たBはただちに自分の覆いを外します。
ガリレオは合図してから、Bの光が見えるまでの時間を測ればいいのです。
しかし、光はあまりにも速いので、まともに実験することはできませんでした。
次に光速の測定に挑戦したのはデンマークのレーマーです。
木星の衛星はときどき、木星の裏側に入るため地球から見ることができなくなります。
裏側に入る時刻や出てくる時刻を調べると、木星が地球から遠ざかるほど遅くなることが分かりました。
これは、木星が遠いほど光が伝わる距離が長くなるからです。
レーマーはこれを利用して光の速度を求めました。
レーマーは天体観測から光速を求めましたが、実験によって初めて光速を測定した人物はフィゾーです。
フィゾーは、光源から出た光を回転する歯車の歯で点滅させました。
この点滅光は約8キロメートル先にある鏡で反射し、再び歯車に戻ってくるタイミングから光速度を測定しました。
ニュートンの速度合成法則との矛盾
ここでニュートンの速度合成について考えましょう。
走っている電車から窓の外を見る、たまたま同じ方向に同じ速度で走る電車がいると、その電車が止まって見えます。
例えば、時速60キロメートルで走る電車から、となりの線路を同じ速度で走る電車を見ると止まって見えます。つまり時速0キロメートルです。
この場合の計算は簡単で60-60=0で求めることができます。
もし、相手の電車が時速70キロメートルにスピードアップすると、その電車は時速10キロメートルに見えます。計算は簡単で70-60=10です。
動いているものから、他の動いているものの見かけの速度は、このように単純な計算で求めることができます。
これを速度合成といいます。
ニュートンの力学の世界では、速度合成は当然のように通用します。
ガリレオの相対性原理では、すべての慣性系で同じ力学法則が適用できます。
それぞれの電車は独立した慣性系なので、単純な計算で速度合成が成り立つのです。
ところが光の話になると、光速度一定の原理が登場するので話は単純でなくなります。
どの慣性系から見ても、光速は秒速30万キロメートルです。
仮に秒速10万キロメートルのロケットで光を追いかけたとしても、光は秒速20万キロメートルにはなりません。
時速70キロメートルの電車から見ても、光速に近い速度で飛ぶロケットから見ても、光速は秒速30万キロメートルです。
つまり、ニュートンの速度合成法則は、光には通用しないのです。
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