アインシュタインと相対性理論の世界

2章 特殊相対性理論とは何か

二つの原理から生まれてくるもの

相対性原理と光速度一定の原理が確認できたところで、この二つから導かれる特殊相対性理論にはいくつかの結論があります。
■速く動くと、時間の経過がゆっくりになる
■速く動くと、周りが縮んで見える
■速く動くと、重くなる
■質量はエネルギーである

宇宙旅行者は歳をとらない

浦島太郎

スピードが速いと時間の経過がゆっくりになることが分かりました。



これは、高速のロケットで何年も旅してきた人が戻ってくると、地球ではもっと年月が過ぎていたという現象を起こします。
これをウラシマ効果とよぶ場合もあります。



さて実際に、どれくらいの時間になるのか計算してみましょう。

ミューオン

このような現象は、地上でも起こっています。



宇宙から高速で飛んでくる粒子を宇宙線といいます。
この宇宙線は地球の大気に突入する原子と衝突してミューオンという素粒子を生み出します。



ミューオンは非常に不安定です。
誕生してから100万分の2秒で消滅します。



ミューオンは20キロメートルの高空で生まれるので、例え光速に近いスピードで走っても1キロメートルも進まずに消滅します。
このため、地上でミューオンを観測できるはずはありません。



ところが、実際には地上付近でミューオンが観測されます。
ミューオンが光速に近いスピードで走るので、地上から見たミューオンの時間が伸びるのです。

動くものは短くなる

さらに驚くことは、速度が速いと長さが縮んでみえることです。



宇宙空間に浮かぶトンネルをロケットが通過する場面を想像しましょう。
このトンネルは長さが30万キロメートルもあります。光が1秒で伝わる距離ですね。



ここへ秒速15万キロメートルで飛ぶロケットがこのトンネルを通過します。
地上からこの通過の様子を観察すると通過に要する時間は二秒です。
簡単な割り算で答えが出ます。
30万[キロメートル]÷15万[キロメートル/秒]=2[秒]



ところが、ロケットは速く飛ぶため、その内部の時間はゆっくり進みます。
光速の半分で飛ぶロケットの中では、時間の経過が0.87倍になります。
つまり、地上で計った2秒間に、ロケットの内部では1.73秒しか経過しません。
地上から見ているとロケットは2秒でトンネルを抜けるのに、ロケットの搭乗員にとっては1.73秒で抜けることになります。



そうなると、このロケットは秒速17万キロメートル以上で飛んでいたことになり、最初の話と矛盾します。



実はここに、相対性理論のもう一つの不思議が隠されているのです。
動いている人から見ると、自分に向ってくる景色は縮んでしまうのです。



秒速15万キロメートルで飛ぶロケットからは、周りの景色が秒速15万キロメートルで後方へ移動するように見えます。
動いている電車から見ると、ホームが後方へ移動してくのと同じです。



光速の半分で飛ぶロケットの中では、時間の進みが0.87倍になりますが、同時に見える景色の長さも0.87倍になります。
このため、長さ30万キロメートルのトンネルも通過するロケットから見れば、約26万キロになってしまうのです。

項目地上の人ロケットの搭乗員
ロケットの速度15万[キロメートル/秒]15万[キロメートル/秒]
トンネルの長さ30万[キロメートル]約26万キロ
トンネルを通過する時間2[秒]1.73秒

トンネルが短くなったからといって、トンネルの実物が圧縮してしまうのではありません。
相対性理論の効果によって、空間そのものが縮まってしまうのです。



仮にトンネルがなかったとしても、このロケットとすれ違う空間は縮んでいます。
空間が縮むのでその中にいるトンネルも空間に合わせて縮むのです。



アインシュタインが登場する以前の物理学では、時間も空間も絶対的な基準でした。
物体が動いたからといって、それが空間の広がりや時間の流れに影響を与えるとは考えられていませんでした。
つまり、時間や空間は絶対的なものであり、動くものによって影響されないものでした。
しかし、アインシュタインはそうでないことを見抜いたのです。



時間も空間も物体の動きに応じて変化してしまうのです。
相手の状況に応じて変化するから相対性理論なのです。



動く物体は時間や空間に影響を与えることを明らかにしました。
動く物体が影響を与えるのは、それだけではありません。
重さにも影響を与えるのです。



物体が落下したり、電流が流れたりすることは物理現象です。
空間に縦、横、高さの方向があることや、時間が過去から未来へ向かって経過していくことも、同様に物理現象です。



空間の三方向と時間の流れは、それぞれが独立した現象であって、お互いに影響しないとおう考えがありました。
実際には影響しあうことがわかりました。
空間と時間は密接に関係し相互に影響を与えあうことがわかりました。
そこで、空間の三方向(3次元)と時間の流れ(1次元)をミックスして、4次元時空と呼ぶようになったのです。



人間はタテ、ヨコ、高さの空間の中で生きています。同時に時間の流れの中にも住んでいます。
人は空間や時間の中から脱出することはできません。



人だけでなく、人間以外の存在はすべて時間や空間から抜け出すことができません。

動くものは重くなる

スピードが速くなると長さが縮むだけではありません。
物体は重くもなります。質量が増えるのです。



この話をする前に、重量と質量の違いについて説明しておきましょう。




質量と重量の違いは?

月の上では、体重が六分の1になります。体重60キログラムの宇宙飛行士は月では10キログラムになってしまうのです。月の上でピョンピョン跳ねる宇宙飛行士の映像を見ていると本当に体重が減っていることがわかります。

月に行くと骨や筋肉が減るのでしょうか?
そんなことはありません。宇宙飛行士の体の骨や筋肉は元のままです。



地球でも月でも地面近くの物体は地面に向けて引っ張られます。
これが引力です。
骨や筋肉は元のままなのに引力が6分の1になったので、体重もこれにあわせて6分の1に減ったのです。



ここで注意したいのは、宇宙飛行士の体の元々の量です。
元々の量は月でも地球でも変わっていません。
元々の量は引力の影響を受けることなく、いつも一定なのです。



この元々の量を質量と呼びます。
一方で、引力の影響で変化する量が重量です。一般に重さと言ったら重量のことです。

宇宙空間は無重力なので重量はゼロですが、質量はあります。
質量は引力があってもなくても変化はしません。



60キログラムは質量であって重量ではありません。
ですから、月の上でも質量は60キログラムのままです。10キログラムになったように見えるのは、引力が6分の1になったからです。



物体に力を与えると加速します。
重たい物体は動かしにくく、軽い物体は少しの力で動きます。
このとき、物体の質量と力と加速度には密接な関係が知られています。




この世の最高速度・光速

光速にまつわる不思議は、だれから見ても光速が一定というだけではありません。
この世の中に光速を超えるスピードはないということです。



科学技術が進歩し、高性能なロケットができたとしても光速を超えることはできません。
これは技術の問題ではなく、自然の法則の問題だからです。



光速は、このようの制限速度でもあるのです。



仮に高性能なロケットを開発したとしましょう。
後端からガスを噴出しロケットは加速します。



噴射を続ける限り、ロケットは加速を続け光速に近づいていきます。



光速に近づくと変化が起きます。
ロケットが重くなるのです。



質量が増せば、加速しにくくなります。
さらに加速するためには、噴射量を増やすか、噴射の時間を長くしなくてはなりません。
それで加速すれば、また重くなってしまいます。



加速すればそれだけ重くなるので、ますます加速は難しくなります。
光速では質量は無限大になるので、実質的に光速に達することは不可能なのです。



どんなにがんばっても光速に達しないのなら、光速度がこの世の最高速度ということになります。



次のグラフは1トンのロケットが、光速に近づくにしたがって、質量が増えていく様子を示しています。
ロケットのスピードが光速の40%を超えるころから、ロケットの質量が目立って大きくなることがわかります。




同時刻の相対性

日常生活では、自分にとって同時に起こった出来事は、他人から見ても同時に起こります。
しかし、相対性理論の世界では、この常識が通用しなくなります。



光速度が一定であるため、自分にとって二つのことが同時に起こっても、他人から見ると同時ではないということがあり得ます。



光に近い速度で飛ぶロケットに乗っています。
今、ロケットのちょうど中央から、前方と後方へ光を放ちました。
ロケットの中の宇宙飛行士からは、この光が同時に、先端と後端に到達したように見えます。



これを地上の管制官から見たらどうなるでしょう。



ロケットのちょうど中央から、前方と後方へ放たれた光は同じスピードで先端と後端に向かいます。
こうしている間にも、ロケットは前方へ進むので、光はまず後端に到達し、次に先端に到達するはずです。



宇宙飛行士にとって、光の前方への到達と後方への到達は同時に発生しました。
ところが管制官には、光の到達は同時ではありません。



二つの出来事が、同時かどうかは、観測する人の相対的な動きによって決まるのです。
このような現象を同時刻の相対性といいます。



同時刻の相対性は、相対性理論の世界で起こる現象です。日常で経験することはできません。




エネルギーの謎

そもそもエネルギーとは?

ものを動かしたり、加熱したり、光らせたりする原因をエネルギーといいます。
例えば、電気はエネルギーを持っています。
電気を使って電球を光らせたり、ヒーターで加熱したりできます。
モーターを回転させることによって荷物を移動させることができます。



同様にガソリンなどの燃料もエネルギーを持っています。



ロケットは燃料を燃やして推進します。
燃料が元々持っていたエネルギーが、燃焼によってロケットをスピードアップさせるのです。
これは化学エネルギー(燃料のエネルギー)が運動エネルギーに変化したからです。



さて、スピードが上がってくると質量が増加するため、加速しにくくなるので運動エネルギーは増えにくくなります。
低速のときには化学エネルギーは運動エネルギーへと変化しますが、速度が速くなると今度は質量へと変化します。



エネルギーと質量は元々別のものと考えられてきました。
ここから、エネルギーと質量はお互いに変換可能なのではという発想が生まれます。



アインシュタインによると、エネルギーと質量は次の式で結びついています。



質量に光速度の二乗をかけた値がエネルギーになります。
実際に計算してみると、1グラムの質量が90兆ジュールのエネルギーに相当することが分かります。




質量とエネルギー

相対性理論の残念な側面としては、それが原爆の原理となったことです。



相対性理論によって、質量がエネルギーに変化することがわかりました。



あとになると、オットーハーンが核分裂を発見しました。
ウランの核が分裂すると、質量がわずかに減少します。そして減った質量がエネルギーとして開放されるのです。
実際に質量がエネルギーに変化している現象を見つけたのです。



この核分裂が原爆に応用され、実際に投下されたのはその8年後のことでした。



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