アインシュタインと相対性理論の世界

4章 相対性理論以外の業績

誘導放出

こんなところでレーザーが使われている

レーザーという言葉をよく耳にします。

医療ではレーザーメスなどが用いられています。 レーザーによる視力回復はレーシックです。

工業の現場ではレーザー溶接が用いられています。

レーザーは特別につくられた人工の光です。 蛍光灯や電球の光も人工の光ですが、レーザー光はまったくの異質です。

光の性質

貴金属の質は純度によって変わります。不純物が少ない純金は価値があります。同じように光にも質があります。質の高い光は単色性、可干渉性、指向性に優れます。 この三つ性質から説明しましょう。

単色性

太陽光をプリズムに通せば、虹が現れます。これは光の屈折率が波長ごとに異なるからです。このことから、太陽光は様々波長の光が混ざっていることが分かります。 もし太陽の光が一色のみだったら、プリズムを通しても虹は現れません。

単一の波長だけの光を単色光といいます。 異なる波長が混ざっていないことを単色性といいます。

可干渉性

単色光の波長はすべて一定だけど、位相(山や谷の位置)は一定ではありません。 単色光は、波長はそろっているのに、位相はバラバラなのです。 このような光の状態を「可干渉性が悪い」といいます。 反対に山や谷の位置がキチンとそろっている場合を可干渉性が良いといいます。

指向性

電球などの光源から出た光は四方八方へと拡散します。 光は一方向を目指さないので光源の指向性は悪いといいます。

自然界にない光----レーザー

太陽光や電灯の光などは、単色性、可干渉性、指向性の性質が優れていません。 1960年代に原子の誘導放出を利用して、これらの性質に優れた人工の光線を発生させる技術が生み出されました。 このような人工の光がレーザー光です。

原子に光が当たると

物質の根本をなす粒子が原子です。 原子は中心となる原子核と原子核を取り囲むように存在する電子から構成されています。 電子が存在できる場所を軌道といい、電子はできるだけ内側の軌道に居座ろうとする性質があります。 原子核から遠ざかるほど、軌道は不安定になるからです。遠い軌道は電子にとって居心地が悪いのですね。

電子が内側の軌道に収まった状態が基底状態です。

原子が外部から、熱、光、放電等のエネルギーをもらうと、電子は外側の軌道にジャンプします。これを励起といいます。

基底状態に比べて、励起状態はエネルギーが大きい状態です。外部から得たエネルギーを保持した状態だからです。

励起状態は非常に不安定です。電子は居心地が悪いのですぐに元に軌道に飛び降りて基底状態に戻ります。励起状態は放っておいても、自然に基底状態に戻るのです。 このとき原子は光を放ちます。持っていたエネルギーが光になるからで、これを自然放出といいます。

自然放出した光が別の励起状態にある原子に当たると、興味深い現象が起こります。 入射した自然放出光の刺激によって、励起状態にある電子が自然放出する前に、強制的に基底状態の軌道に戻ってしまうのです。 このときもやはり、持っていたエネルギーが光として放出されます。 これを誘導放出といいます。

自然放出励起状態の原子が自然に基底状態に戻るときに光を放出する現象
誘導放出励起状態の原子が自然放出光を受けて基底状態に戻るときに光を放出する現象

光は粒子であると同時に波でもありますが、この場合は粒子として考えると理解しやすくなります。 粒子として考える場合の光の一粒をフォトンという。

自然放出光のフォトンの刺激によって、誘導放出光のフォトンが生まれます。 フォトンが2倍に増えるのです。

誘導放出光は、自然放出光と同じ波長、同じ位相を持ちます。 このため、両者は区別がつきません。 2倍になったフォトンはコヒーレントな光なのです。

励起状態の原子をフォトンで次々に刺激すれば、コヒーレントな光がどんどん増えます。 こうしてできる光がレーザーです。

誘導放出は、1917年にアインシュタインによって理論的に予測されました。 この誘導放出を利用して、レーザー光を生成させようというアイデアが生まれたのは1950年代になってからです。

レーザー光を生成するには、もとになる原子の集まりが必要です。 これをレーザー媒質といいます。

励起状態にある原子が少ないと、誘導放出は起こりません。 つまりフォトンを十分に増幅するためには、大量の励起した原子が必要なのです。

このような状態は自然界ではあり得ません。自然界では基底状態の原子の方がたくさんなのです。

大量の励起した原子を作り出すことを、ポンピングといいます。

レーザー媒質には様々な種類の物質が利用されています。 物質の種類によって、得られるレーザー光の波長は異なります。

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